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建設業DXのポイントを事例とともに解説

この記事では、建設業DXについて背景と課題、国の取り組みと成功事例などを紹介しています。
何故、建設業にDX化が求められているのか、 どのように進めていくのか、などを国の施策や成功事例とともに見ていきます。

建設業のDX

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、データやデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズに対応しながら製品やビジネスモデルを改革していくことを言います。
また、経済産業省は「『DX 推進指標』とそのガイダンス」において、業務の効率化とともに組織、プロセス、文化の変革も求めています。

参考 「DX 推進指標」とそのガイダンス https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003-1.pdf

建設業においても、少子高齢化社会による人手不足や業務効率化等の問題解決のため、DX化が求められています。最近はAIやIoTといったデジタル技術を活用しDXを進めている企業も出てきました。
IT技術を活用した建設現場の生産性向上を目指す「i-Construction」の推進、「インフラDX 総合推進室」の設置などの取り組み等を通して、建設業DXを進めています。

建設業DXが求められる社会的背景

建設業DXが求められている背景には、次のような社会的背景があります。

少子高齢化

出生率の減少により、日本の少子高齢化が進んでいるのはご存じの通りです。またこのことは、労働人口の減少を引き起こしています。2021年1月の総務省の調査によると、就業者数は前年同月に比べ32万人の減少とのことでした。建設業においても人手不足の問題は深刻化しているのです。

インフラの老朽化

現在使われているインフラの多くが高度成長期に整備されたものです。当然老朽化が進んでいますが、財政難による公共事業への投資縮小で充分な整備がなされていない状況です。
DX化による効率的なインフラ整備が早急に求められています。

建設業が抱える課題

建設業を取り巻く社会的背景の他に、以下のような課題が存在しています。

1.「働き方改革関連法」の適用

国土交通省「建設業における働き方改革」によると、建設業は他業界に比べて労働時間、労働労働日数ともに多い状況となっています。建設工事全体の65%が4週4休以下で就業しているのです。
また、「働き方改革関連法」が建設業にも2024年度から適用される予定です。この法律では時間外労働の上限が規定され、違反した場合の罰則規定も盛り込まれています。

こうした状況から、業務効率化により工程短縮を進めていかざるを得なくなっているのです。

2.人材不足および高齢化

少子高齢化による人材不足は前述した通りですが、加えて建設業では若年労働者の割合低下が目立ちます。就業者の引退が増えており、業界の高齢化が更に人材不足を加速させているのです。
また高齢化は就業者減少の他にも、技術伝承が途切れることも意味します。

就業者を増やすためには、賃金・休暇等の待遇に加えて、建設業界の職場環境についても改善が必要です。新しい技術の導入によって、負担を減らし就業者のスキルに頼ることなく仕事を進めていけるシステムが求められています。

3.非効率的な業務プロセス

建設業はアナログな仕事が根強く残っており、わずかな修正でも多くの時間と手間がかかっている状況です。

現在紙ベースで行っている業務を、データ化、デジタル化するだけでも大幅な効率化が期待できます。ひいては1.の労働時間短縮や2.の人手不足といった課題解決にもつながるでしょう。

建設DXのメリット

それでは、建設業がDX化を行うとどのようなメリットがあるのでしょうか。DX化メリットを5つ説明します。

1.効率化

建設DXの導入は、業務の効率化に役立ちます。

例えばBIMを活用してコンピューター上に3次元建築物を作成すれば、2次元図面と比べながら視覚的に図面を理解できます。さらに、設計・施工・管理等の情報を加えることができるので、情報の一元管理が可能になります。
このように建設生産システムや管理システムの効率化を行うことができるようになるのです。

また、ICTの利用で、建設生産システムの各ステップでの情報共有ができるようになり、建設生産の効率アップが見込めます。顧客管理や営業自動化等は、事務部門や営業部門での業務効率化を可能にします。

2.人手不足解消

DX化のメリットとして、人手不足解消も挙げられます。

業務効率化による労働時間短縮、ドローンや重機の自動化等による作業負担の減少は、労働環境の改善をもたらします。労働環境改善は、就業者の増加や定着につながり、結果として労働力の確保が可能になります。

また、デジタル技術活用による各種業務の自動化は、少人数、短時間での処理を可能にするため人的リソースの削減にも効果を発揮するでしょう。

3.技術の伝承

建設業界の高齢化によりスキルを持った人材が引退していくと、そのスキルの継承が不可能になってしまいます。しかし、DX化によってこのような問題も解決することができます。

一例として、AIを活用したベテラン人材の技術解析、標準化があります。AIによって標準化された技術を、経験の浅い就業者に教えることで技術継承が可能になります。また、データ化された技術をマシンに組み込めば、ベテランの技術をマシンで再現するということもできるでしょう。

4.安全性向上

建設業のDX化で期待できる利点に、安全性の向上もあります。

建設業の現場は危険な作業が多く、他業種に比べ労働災害が多いことが挙げられます。
厚生労働省の調査では、2020年の死亡災害は258件、死傷災害は14,977件となっています。中でも「墜落・転落」の労働災害が多く、死亡災害は258件のうち95件、死傷災害は14,977件のうち4,756件を占めています。高所作業の多い建設業は、常にこのようなリスクを内在しています。

こういった危険作業を、デジタル技術を使い自動化すれば従業員の安全が確保されます。
例えば、重機のリモート操作で危険個所の点検や作業を機械に任せれば、安全な場所で重機の操作や作業の確認をすることができるようになります。

5.競争力強化

建設業のDXは、業務効率化、人手不足解消、技術継承、安全性向上といったことが可能になり、大きなメリットがあります。しかし、中小零細企業が多く高齢化の進んでいる業界故に、実際に着手するとなるとハードルが高くなかなかDX化が進んでいない現状です。

しかし、ここで一歩前へ踏み出すことで、必然的に他社との差別化を図ることができるでしょう。最初から大規模な改革を行わなくとも、できる範囲でDXを推進することで競争力を高めていくことが期待できます。

建設業のDX 推進に向けた国の取り組み

ここでは、建設業のDX化に向けて、国がどのような取り組みを行っているのかを見ていきます。

i-Construction

国土交通省は、これまでより少ない人数、少ない工事日数で同じ工事量の実施が実現できる「i-Construction」プロジェクトを推進しています。
i-Constructionの目標は、建設生産プロセスでICT等の技術を活用して建設現場の生産性を2割向上させることです。建設業界の高齢化、人手不足解消のため生産性をアップさせることを狙いにして始まりました。

i-Constructionには「ICTの全面的な活用(ICT土工)」「全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化など)」「施工時期の平準化」の3つの施策が掲げられています。
このうちICT土工では、建設プロセスにおけるICTや3Dデータの活用で業務改善を目指すとされています。

参照 https://www.mlit.go.jp/common/001149595.pdf

公共工事のBIM/CIM原則適用

BIM(Building Information Modeling)は、「建物情報のモデル化」のことを、CIM(Construction Information Modeling)は、「建設(土木工事)情報のモデル化」のことを言います。建設業において、各工程での情報を3Dデータ化して、それを活用していくことです。

計画、調査、設計段階から施工、維持管理までの各工程で3Dデータを活用することで、事業全体で各部門間の情報共有をスムーズにします。その上で、建設生産・管理システムの効率化・高度化を行っていくものです。
国土交通省は2023年度までに全ての公共工事(小規模を除く)でBIM/CIMを原則適用することとしています。業務効率化、生産性向上に加えて、最適化されたインフラの整備、維持管理方法による国民生活の向上、建設業界の労働環境改善で実現される就業者のモチベーションアップ等が期待されています。

参照 https://www.mlit.go.jp/tec/content/001389577.pdf

インフラDX 総合推進室などの発足

国土交通省は、令和3年4月に本省・研究所・地方整備局等が一体となり取り組みを推進する「インフラDX 総合推進室」を発足させました。
目的は、インフラ分野のDX化を進めて、デジタル技術を活用しながら社会情勢に合わせた新しい働き方への転換と生産性や安全性向上を図るため、とされています。

インフラ分野DX の推進に向けて、

・現場、研究所と連携した推進体制の構築
・DX推進のための環境整備
・実験フィールド整備
・新技術をを活用する人材の育成や施設整備

を展開しています。

参照 https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_000798.html

建設DXで用いられる技術

建設業DXを推進していくために活用されている技術の一例を紹介します。

3次元モデルデータ

3Dデータを使った計画設計だけでなく、デジタルツイン(現実環境を仮想空間に再現すること)でのシミュレーションを実現したり、3Dプリンタによる構造物の製造など、多方面での利用が期待されています。

3次元モデルデータの作成方法についても研究が進んでいます。
例えば、最近注目を集めているLiDAR機能を利用した3次元モデルデータの作成方法によって、高額なレーザースキャナを使わずに3次元モデルデータを導入することが可能になりました。

ドローン

橋梁、鉄塔、送電線といった高所の点検、整備などの作業で、ドローンは大変活躍しています。
高所の点検整備作業の際、足場を組んだり作業員を確保したりする必要が無くなり、作業の安全性、効率性が向上しました。また、各種インフラの定期的な点検整備を容易にし、メンテナンスコスト削減にも役立っています。

RTK(Real Time Kinematic)測位

RTKとは、「相対測位」と呼ばれる測定方法のひとつです。地上に設置した「基準局」からの位置情報データにより、高精度の測位が可能です。

誤差数センチという高精度のため、ドローンの自動航行やMaaS(Mobility as a Service)、農業機械の自動運転などに活用されています。建設現場において、RTKを利用したドローンを使うことでより正確で安全な作業が可能になります。

AI

建設業DXでも、AIは様々な場面で活用が期待されています。

例えば、
・AI (人工知能)の映像解析能力を使い熟練職人の技術を次世代へ伝える
・3Dデータ処理と分析
・ドローンが撮影した映像を分析し、インフラの老朽化を察知する

などの活用法があります。建設業のDX推進において欠かすことのできない技術です。

クラウド

建設業界は、未だ紙ベースでの処理システムが残っており、非効率的な作業が生産性向上を妨げています。

クラウド型システムの導入で、全国の拠点のデータを一元管理し、ノウハウ共有や同一フォーマットでの事務作業を行うことで、業務効率化を実現できます。
先端技術とは言えないまでも、クラウド化によってDXの第一歩を踏み出すことは可能です。

建設DXの成功事例

建設業でDXの取り組みで成果を出している企業4社を紹介します。

清水建設株式会社

清水建設は、「DX銘柄2021」「DX銘柄2022」「DX認定取得事業者」に選定されており、建設業界の中で、DX化にいち早く取り組み、成功した例として評価されています。


清水建設は、設計、施工現場、管理などの各工程で先端技術を取り入れDXを進めています。

設計段階では、ICT(情報通信技術)を使い、デザインに合わせて構造・環境性能などをシミュレーションする手法「コンピュテーショナル・デザイン」を導入。施工現場では、BIMデータを連携して自律型の溶接ロボット開発や3Dプリンタでコンクリート柱を構築などの実績があります。
また、AR技術を活用した「Shimz AR Eye」という施工管理を支援するシステムを開発しました。

「DX-Core」は、清水建設が独自に開発した建物運用のデジタルプラットフォームです。
建物内の設備や各種IoTデバイスをつなげることで、資産価値向上、建物運用管理の効率化や 利用者の利便性、安全・安心向上を実現させてます。清水建設は「DX-Core」を商品化、顧客へ実装提案も始まっています。

参照 https://www.shimz.co.jp/

鹿島建設株式会社

鹿島建設は、DXのビジョンとして「顧客・社会とデジタルで繋がり主体的に課題を発見・解決し 便利・快適・安心で,希望ある世界を創る」を掲げています。
専務執行役員でデジタル推進室管掌の福田孝晴氏はインタビューで「中心はヒト」と語り、DXを通して「ヒト中心の持続可能な街づくり」を目指しています。
「DX銘柄2021」と「DX認定取得事業者」に選定されており、建設DXが成功している企業の1つです。

DXの取り組みとしては、スマートビルやスマートシティなどが挙げられます。「HANEDA INNOVATION CITY」では、2020年度国土交通省スマートシティモデル事業「先行モデルプロジェクト」に選定されています。
また、デジタルツインやVR空間の活用、自動化なども推進しています。

https://www.kajima.co.jp/

ダイダン株式会社

ダイダンも「DX銘柄2021」と「DX認定取得事業者」に選ばれており、DXへの取り組みが高く評価されています。

事例としては、まず「現場支援リモートチーム」があります。ウェブ会議システムやCADシステム共通化、クラウドサーバーの活用で、本社や支社と現場をつなぎ情報共有、そして技術サポートができるようになりました。
また、クラウド型のビル監視制御システム「REMOVIS」では、クラウド上でビル監視を行うシステムを開発しています。リモートでのビル管理が可能になり、設備管理の少人数化を実現しています。

参照 https://www.daidan.co.jp/

大成建設株式会社

大成建設も「DX認定取得事業者」に選定されています。また、国土交通省 中部地方整備局主催の「中部DX大賞」も受賞しており、こちらも建設DX成功事例として評価されています。

大成建設は数々の実証実験を行っています。5G通信による建設機械の無人化施工の実証実験や、5Gを活用したトンネル工事現場における作業員の安全管理を目的とした実験などにより、建築現場での効率化、作業員の安全性向上への貢献が期待されています。

参照 https://www.taisei.co.jp/

まとめ

建設業界は、人手不足、高齢化に加え従来からのアナログな業務形態による非効率性など課題が多くあります。高度成長期に建設されたインフラ設備の老朽化問題もあり、DX化による生産性向上は急務になっています。

このような背景から、国も各種の取り組みを行い始めており、建設業DXを進めようとしています。また、DX化に着手し成果を挙げている企業も増えてきました。

この記事で取り上げた成功事例なども参考にしながら、少しずつDX化を進め始めてはいかがでしょうか。

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