DX 農業DXについて事例とともに解説 2022.11.13 2023.01.13 この記事では、農業のDX化について解説しています。農業分野でのDXの現状と課題や事例を紹介し、農業DXについて概要を理解して頂けるような記事になっています。農業DXが必要になった背景に農業者の高齢化・労働力不足が挙げられます。以前から農業従事者は新規就労者が少なく、慢性的な労働力不足が問題になっていました。令和2年には、基幹的農業従事者の平均年齢は67.8歳、うち65歳以上の割合は約7割に達していると報告されています。従来の人手に頼る労働集約型の生産スタイルを継続する限り、今後も同水準の生産力を確保することは難しいのではないでしょうか。加えて、農地や農業施設などの生産基盤を維持管理していくことも、難しくなることが考えられます。だからこそ、デジタル技術の導入により、生産性向上、生産、経営の効率化を図っていくことが緊急の課題と言えるでしょう。安全で高品質な食料供給のために、農業のDX化は欠かせないものとなっているのです。 農業DXとは まず、DXの定義を説明します。経済産業省が2018年12月に発表したDX推進ガイドラインでは、DXを以下のように定義しています。 「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」引用:経済産業省「『DX推進指標』とそのガイダンス」より つまり、デジタル技術活用の下で業務効率化を行い、新しいビジネスモデルの創出そして新たな市場価値の創造を目指すことをいいます。現在の農業は、農業者の高齢化、後継者不足、労働者不足などの問題が深刻になっています。2021年3月に農林水産省が発表した「農業DX構想」では、この状況を踏まえて新しいデジタル技術を導入活用する、新しい農業の形を提唱しました。 農業DX構想 農林水産省は「農業DX構想」の中で、農業DXの目的は「デジタル技術を活用して効率の高い営農を実行しつつ、消費者ニーズをデータで捉え、消費者が価値を実感できる形で農産物・食品を提供していく農業(FaaS: Farming as a Service)」のへの変革の実現」であると説明しています。※引用:農林水産省「農業DX構想」の概要https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/joho/attach/pdf/210325-1.pdf「FaaS: Farming as a Service」は直訳すると、「サービスとしての農業」となります。これまでのように生産することだけでなく、消費者への価値提供も含めた農業が求められているのです。そのためにデジタル技術を活用し、農業、物流、食品、小売、外食といった業種の垣根を越えたサービスを消費者に提供することが必要になってきます。また、農業やその周辺産業が、消費者ニーズを見据えて、デジタル技術を用いて消費者に新たな価値を提供することが目標です。そしてこれらの変革は、2030 年(令和12年)達成を目途に進められてます。農業DX構想では、農業DXの基本的方向として次の6つを示しています。・政府方針に基づく農業DXの推進・デジタル技術の活用を前提した発想・新たなつながりの形成によるイノベーションの促進・消費者・利用者目線の徹底・コロナ禍による社会の変容への対応・持続可能な農業の実現によるSDGsの達成への貢献更に農業DX実現に向けての取り組み課題(プロジェクト)を・農業経営、流通、食品産業などの「現場系」・農林水産省が主体となる「行政実務系」・現場と農林水産省をつなぐための「基盤整備」の3つに分類し、47のプロジェクトを掲げています。 日本の農業DXの現状 現在、日本の農業におけるDX化はどの程度進んでいるのでしょうか。ここでは、生産現場、流通・消費、農村地域、行政事務ごとに農業DXの現状を見ていきます。 生産現場 農林水産省は、ロボット・AI・IoTなどの先端技術を活用したスマート農業の現場実証を進めています。各種センサーやドローン、自動走行トラクタ等の導入も随所で始まっています。しかし、生産・出荷や経営に関する各種データの扱いについては、多くが人手に頼り紙媒体を使用している状況です。データ活用を駆使して農業を行っている農業経営体は全体の2割弱という調査結果もあり、デジタル技術を導入した経営改善が進んでいるとは言い難い現状です。 流通・消費 他産業では、ネット通販の増加を受けて、物流の効率化・自動化が進められています。例えば、複数企業間での共同輸送、帰り荷マッチング(空トラックの有効活用)、最適ルート選択の自動化、等デジタル技術を活用した取り組みが進んでいます。一方、農業ではこのような取り組みを行っているケースは少なく、物流効率化の動きはまだまだ限定的です。消費者ニーズの多様化を受けて、消費者と生産者を直接つなぐ取り組みも一部では始まっています。しかし紙媒体をベースとしたデータコミュニケーションが多く、生産者から消費者までの各サプライチェーン間での情報共有を行っているケースはごく限られています。 行政事務 農林水産省共通申請サービス(eMAFF)が開始され、窓口が一本化され、オンライン上での申請が可能となりました。これにより、申請者、行政双方の負担軽減が期待されています。しかし、まだ多くの申請や各種審査などは、多くが紙媒体を使い手作業で行われています。記入項目や必要書類が非常に多く、手間と時間がかかることから、農業従事者や政府関係者の負担になっています。 農村地域 高齢化や人口減少が、個々の集落だけでは農業の継続を困難にしています。このような問題の解決のため、インターネットやSNS等のデジタルネットワークを使い、都市と地方、地域内の異業種人材を結びつける動きが見られます。複数の集落が連携して地域課題解決への取り組み、グリーンツーリズムや農泊など都市と農村の交流を図ることなどです。農水省は、こういった状況を受けて「他産業を含めた地域全体の経済発展や活性化も期待される」としていますが、まだ大きな広がりを見せているとはいえないようです。鳥獣被害対策、農業基盤の整備などにデジタル技術を活用する動きも出てきていますが限定的なものであり、本格的な稼働が期待されます。 これからの課題 農林水産省は、「農業DX構想」の中で、コロナ禍の下で明らかとなった農業・食関連産業分野における課題、として次の5点を挙げています。 デジタル化の遅れ コロナ禍で官民ともにデジタル化の遅れが顕在化しています。農業分野でもデジタル化の加速化が求められます。 従来の「つながり」の分断 ネット通販の発達で従来の対面型販売の必要性が薄れてきています。従来のつながりが分断することで、農産物の需要も大きく変化しています。 不確実性への脆さ コロナ禍の教訓を踏まえ、不確実な時代における社会や環境の変化にダイナミックに対応していくことが必要になってきました。 行政運営の非効率性 コロナ禍で明らかになった行政運営の非効率性を改善するため、デジタル技術の活用の徹底が必要とされます。 デジタル時代の社会インフラの確保 農業・農村の特性に応じたインフラ強靱化への取組を模索していくことが必須です。 農業DX推進に必要な手法 農業DXを進めていくにあたって、ポイントとなる手法、思考法を紹介します。 アジャイル手法 アジャイルとは『すばやい』『俊敏な』という意味をもち、システム開発で使われる手法がアジャイル開発です。反復 (イテレーション) と呼ばれる短い開発期間単位を、機能ごとに繰り返していきます。開発期間の短縮と開発途中の機能変更などに、柔軟に対応することができるのです。この手法は、農業DXにも応用することができます。一度決定したプロジェクトにおいても、消費者のニーズの変化、中途からの新技術やサービスの導入などに即時対応することが可能になります。大きなプロジェクトに過度の時間をかけるのはなく、小さな課題の解決を積み重ね、トライアンドエラーを繰り返し成果を上げていくことが必要です。 データドリブン経営 データドリブン経営は、経験や勘に頼るのではなく、収集・蓄積されたデータの分析結果をもとに経営戦略や方針を決めていくことを言います。データドリブン経営では、デジタル技術を活用したデータ分析が必要です。DX推進にあたって、データドリブン経営は重要な要素となります。農業においても、データドリブン経営は必須です。農業データの活用で、農業経営の効率化の他に技術継承の円滑化等にも役立つとされています。農林水産省も「2025年までにほぼ全ての農家でデータ活用を実践する」という目標を掲げ、様々なプロジェクトを推進しています。 UI/UXの提供 DX化において、デジタル技術導入は欠かせないものです。しかし新規導入したシステムや技術を、ユーザーである農業者、消費者に実際に使ってもらえなくては意味がありません。これまでデジタル技術に触れる機会が少なかった人たちにとっても、わかりやすく操作しやすいものにする必要があります。農業DXの推進には、「UI(ユーザーインターフェイス)」「UX(ユーザーエクスペリエンス)」を常に意識することが大切です。 他業種との連携 DXは、1つの業界、業種内で行われるだけではありません。異業種が連携して、新たな価値、変革を起こしていくことが求められています。農業DXに、他分野との効果的な連携を検討しながら、成果を出していくことも必要です。 農業DX導入事例 最後に農業DXの事例として、2社の取り組みを紹介します。 株式会社オプティム 人手を使って行う農薬散布は、多大な手数と労力が必要でした。しかし、この農薬散布用ドローン「OPTiM X」は、人に変わって畑全体に農薬を散布してくれるため、貴重な人手を農薬散布に割く必要がなくなります。農業従事者の作業負担軽減にもつながりました。株式会社オプティムが開発した農薬散布用ドローン「OPTiM X」は、AIを活用してピンポイントに必要量の農薬を散布することができる機械です。さらに、ドローンに搭載されたAIは、作物の虫食い部分を的確に発見し、虫食い部にのみ農薬散布を行います。結果として、農薬量減少、過剰な農薬散布をせずにすむようになりました。低農薬野菜の栽培が可能となり、また農薬代の節減にも一役買っています。こうして栽培された「スマート黒枝豆」は、低農薬であることが食の安全に気を遣う消費者に評価されています。通常の枝豆に比べ数倍の価格で売り出しても完売するほどの人気で、商品価値を高めることにも成功しました。「OPtiM X」 は、農薬散布作業の効率化と、低農薬栽培という成果を出しました。そして「スマート黒豆」という、新たな価値の創造・ビジネスチャンスを創り出しています。参照 株式会社オプティム https://www.optim.co.jp/ 株式会社ビビッドガーデン 株式会社ビビッドガーデンは、生産者が消費者に農作物を直接販売することができるプラットフォーム「食べチョク」を開発、運営しています。「食べチョク」に登録した生産者は、自ら出品する作物の価格を決定し、販売から発送まですべての作業を行います。通常の流通ルートのように卸や小売店を通さないため、中間マージンが不要となり、消費者の支払う金額がそのまま生産者のものになります (食べチョクの利用手数料は除く) 。規模が小さい生産者でも利益を得ることが可能です。また、食べチョクに出品される作物は、一定の基準を満たした生産者が栽培したものであり、栽培環境などが開示されています。消費者にとっても生産者、栽培環境が明らかになることで、安心して購入することができます。生産者が直接販売するシステムは、トレーサビリティー(traceability:追跡可能性)も高く、生産者の信頼、消費者の安心を得ることが可能になりました。デジタル技術を活用することで、生産者と消費者の両者にメリットが生まれた成功例です。参照 株式会社ビビッドガーデン https://vivid-garden.co.jp/ まとめ 農業従事者の高齢化、労働力不足により、安定した食料供給への不安が募っています。農林水産省もこの状況を重く見て「農業DX構想」を提唱しました。農業DXの推進には、デジタル技術を活用した業務効率化と生産力向上が必須です。また農業分野だけでなく、他分野とも連携した新しいビジネス創造も求められています。農業や食関連業界以外の業種においても、デジタル技術やデータ活用の方向性など、農業DX構想は参考になる点が数多くあるのではないでしょうか。この記事で紹介した導入事例と合わせて、御社のDX化の参考にしてみてください。 DX化を依頼するなら エネセーブではDX化を得意としております。DX化をご検討の方は、是非以下よりお問い合わせ下さい。 お問い合わせ Tweet Share Hatena Pin it DX DXの成功事例は?業種別DX化の事例紹介 不動産業界のDX化についてメリットや事例とともに解説